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左部 俊一郎(さとり・しゅんいちろう)
1968年福岡県生まれ。桜美林大学経済学部卒業。95年株式会社ジェックに入社、営業企画、商品企画、販促、広告・広報等の業務を担当。2003年に株式会社ユニモトに入社、メディアデザイン事業部を新設。11年にVR事業を立ち上げ、14年代表取締役社長に就任。
特集特許取得の技術力×クリエイティブ力が強み 360度VRで〝第2の創業〞目指す
1.社員数 20 人規模だが、 VR制作実績は 国内トップクラス
2.ミュージックビデオ、 不動産、展示会、 人材採用などさまざまな ジャンルで展開中
3.さまざまな強みをもつ ベンチャーと提携 VR関連売上げを拡大
1.社員数 20 人規模だが、 VR制作実績は 国内トップクラス
2016年は「VR元年」と呼ばれ、世界的に急成長するVR(バーチャルリアリティー、仮想現実)市場が、日本でも本格的に立ち上がった。
VRは、ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)というゴーグル型の端末を頭につけ、コンピューターの中につくられた仮想的な世界を現実のように体験するもの。これまでは体験型ゲームに使うくらいの認識しかされていなかったが、今後は企業の広告プロモーション、音楽などのエンターテインメントをはじめ医療や教育、観光、インバウンドなど幅広い領域にその技術が活用されていくとみられている。
MM総研の調べによると、2016年度のVRコンテンツ市場は27億円の見通しで、5年後の21年度には、16年度比約26倍の710億円にまで拡大すると予測している。
この有望な新市場をめがけて大小さまざまな企業が押し寄せている。その中でもいち早く市場に参入し、存在感を示しているのがユニモトだ。従業員数20人の会社だが、昨年秋に発表されたVR関連事業の国内業界マップ「2016 VRIndustry Landscape in JAPAN」の「360VIDEO」のカテゴリーで、電通やフジテレビ、ドワンゴなどそうそうたる企業とともに名を連ねている。ユニモトの社長左部俊一郎は、「当社は会社規模こそ小さいが、このカテゴリー中で一番実績があると思う」と胸を張る。
その言葉どおり、VRがまだ国内でほとんど知られていなかった11年に、360度の全方位カメラで空間を丸ごと撮影し、コンテンツを制作する事業(360VR事業)を開始。13年からは、360度の動画サービス「ぐるり動画」の提供を始めた。
左部はVR事業を立ち上げた責任者だ。
「当社は1986年設立で31年の歴史がある。創業から長く映像専業の制作プロダクションとして事業を展開していたが、2003年に私が測量・設計システムメーカーから転職し、ウェブ制作やグラフィックデザインなど映像以外の媒体のプロモーション部門を立ち上げた。その後、事業展開を模索するなかで、大手測量機器メーカーから、360度撮影できる計測システムを広告業界にも生かせるのではないかという相談を受けた」
360度のパノラマ写真は以前からあったが、動画はほとんどなかった。これを使ったコンテンツなら世の中に新しいサービスを展開できるのではないか。そう考えたという。当初の2年は測量機器メーカーと共同で商品開発を行ない、オムロンや富士電機などの大手企業で、工場やショールームの紹介用コンテンツとして採用されるなど着実に実績を積んできた。そして13年、共同開発を終了し、ユニモト独自の「ぐるり動画」サービスの提供を開始。16年からは「ぐるりVR」にリニューアルし、VRサービスの強化を図っている。
2.ミュージックビデオ、 不動産、展示会、 人材採用などさまざまな ジャンルで展開中
「我われの強みはモノづくりだ。30年以上、映像プロダクションとして技術とクリエイティブ力を培ってきたので、他社には出せないクオリティ、トレンドを捉えた付加価値の高いコンテンツを提供できる」
左部は競争激化するVR市場での勝ち残りに自信を示す。
ユニモトは、「VRコンテンツ制作のベストパートナーへ」という事業理念を掲げている。「これからさまざまな業界でVRが活用されていく。当社はお客様のパートナーとして、新しい価値を生むVRコンテンツを一から一緒に展開していきたい」
同社ではさまざまな要望に応じたオリジナルコンテンツ制作のほか、顧客が選択しやすいパッケージも用意している。
例えば、「不動産VR制作・配信サービス」では、マンションの室内を360度撮影。マンションの購入や賃貸を考えている人が室内を疑似体験したり、最寄り駅からのルートの歩行イメージ、周辺の公共施設や店舗などの情報を組み込み暮らしのイメージを体感することもできる。
企業が展示会に出展した際のブースをVRで体験できる「ヴァーチャルブース」は、多額の費用と時間をかけてつくった展示ブースを会期終了後、展示会に来場できなかった顧客などに見てもらうことができる。
ほかにも企業の新卒採用を支援する「シューカツ!VR」や、ブライダル市場などさまざまな業種、業界向けのサービスを次々にリリースしている。
3.さまざまな強みをもつ ベンチャーと提携 VR関連売上げを拡大
ユニモトの事業の柱は現在、映像・ウェブ・グラフィックデザイン制作を手がけるクリエイティブ事業と、VR事業の2つ。今年度(18年3月期)はVR関連が売上げ全体の約3割を占めるまでに成長する見込み。将来的には6割程度まで引き上げたいという。
そのための布石も着々と打っている。ひとつがVR関連特許の取得だ。360度の動画を音声と完全同期させライブ感を高めたり、複数のカメラで撮った360度動画内の特定人物だけの動きを切り取って配信したり、音楽ライブやスポーツなどの分野での需要が見込まれる。
業務提携にも積極的だ。直近では16年10月にIT系ベンチャーのカディンチェ、新卒女子採用事業で注目を集めるUA Linksと、17年2月にはエンターテインメント分野でVR配信事業に強みをもつゲートウエイと提携した。「VRのコンテンツニーズが加速度的に多様化するなかで、当社だけですべてに対応しようとすれば力が分散しスピード感が保てなくなる。そこでIT系のVR企業と業務提携し、お互いの強みを活かして補完し合うことによる対応力の強化、新卒採用や音楽業界など特定の市場に強みをもつベンチャー企業と提携し、市場にマッチしたVRの活用モデルをスピーディに展開することが狙い」と左部は話す。
同社では現在、新卒採用にも力を入れ、社内で育成することを基本にしているという。「これからを〝第2の創業〞と位置づけ、ベンチャーとして挑戦していきたい。そのためには、同じマインドで高いモチベーションをもった人材の育成が不可欠。〝VR制作ならユニモト〞というブランドをつくりあげたい」
産声をあげたばかりの国内VR市場で、ユニモトはどう成長していくのか。左部の経営手腕が問われるのはこれからだ。